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2021.07.15

3年前に日本人の旦那さんが亡くなったのですが…

「実は、うちのやつのことなんですけどね…」
相続問題で依頼を受けている男性から、電話が入った。
「いま、一緒に暮らしているんですけど。籍は入れてないんで、内縁の妻というんですか。タイ人なんですけどね。もうすぐビザが切れちゃうんですよ。前の旦那さんが3年くらい前に亡くなって、何にもせず今まで来たらしいんですね。」

数日後、内縁の夫妻が事務所へやってきた。
行政書士「それじゃ、在留カードを見せてください。」
日本人の配偶者等 3年 在留期限 2021年5月16日

在留期限は3か月後。
日本人の配偶者等という在留資格は、その名の通り日本人の配偶者や、日本人の特別養子、日本人の子として生まれた方が取得できる在留資格。
日本人配偶者と離婚したり、死別した場合は、1週間以内に入国管理局(以下、入管)へその旨を届け出なければ罰金の対象となり、6か月間ほかの在留資格に変更したり、ほかの日本人と結婚しない場合は、在留資格取り消しの対象となる。

行政書士「旦那さんが亡くなったとき、入管に言いましたか?」
内妻「言わなきゃいけないの?知らなかった」

入管は、納税の状況を厳しく見るけれども、どうかな…?
内妻「よくわからない」
内夫「税金の紙は来ているのは見たことあるんですけどね、払ってないと思う」
内妻「うん、払ったことない」

給与明細を見ると、所得税は天引きされていますが、住民税は0になっていた。
市から納付書が届いているはずで、ずっと払ってないんじゃないかな…

内夫「これを一気に払うのは難しいです」

なんでも、内妻の方は、工場で正社員として働いているが、コロナ禍で収入が激減、内夫の方もコロナで職を失い、日雇い労働。もとはといえば、内夫は生活困窮の窓口から、うちの事務所につながった依頼者さんだったのだ。
収入も不安定だし、結婚は考えていないよう。

行政書士「そうなると、内妻さんのビザは、いわゆる『離婚定住』に変更することでいくしかないですね。離婚定住や死別定住というのは、日本人の配偶者の方と別れたあとも、日本にいるべき理由がある方が取得できるビザなんです。お子さんがいると、日本人の子どもを育てているということで認められやすいんですが、お子さんがいらっしゃらないということなので、なかなか難しい。これからも日本にいたい理由をしっかり説明していかないといけないので、今までの旦那さんとの結婚生活や、今の仕事のこと、これからも日本にいたい理由など、いろいろ聞いていいですか」
内妻「はい」

そうしてインタビューは始まった。
旦那さんはかなり年上の方で、内妻さんのことを娘のように可愛がってくれたこと。
旦那さんはお料理が得意で、日本料理の作り方を教えてくれたこと。
旦那さんは具合が悪くなっていって、ガンで入院したこと。毎日看病に行ったこと。
最愛の旦那さんが亡くなってから、日本のお寺とタイのお寺にお骨を納めに行ったこと。
日本にいる親せきを頼って地方から首都圏へ来て、工場で働き始めたこと。

行政書士は、こうした内容を理由書にまとめました。
税金を一気に納めることは難しかったので、市役所へ行き、分割納付の誓約をし、誓約書を添付しました。
旦那さんが亡くなったことを入管に届け出なかったこと、税金を滞納していたことの反省文を書きました。
これらとともに、「日本人の配偶者等」から「定住者」への在留資格変更許可申請書を、入管へ出しました。

それから約1か月後のこと…
入管から、在留資格変更「許可」のお知らせが!
結果は、「定住者1年」でした。

あまり大きな声では言えませんが、初めて事務所に来たとき、内夫さんは頼りない感じで、内妻さんは少しあきれているような感じでした。
ただ、ビザの変更にあたって、内夫さんがとても頑張ってくれて、内妻さんはそのことに心を打たれたようで、二人の仲が深まっていました。

ひとまず1年、日本で一緒に暮らせることになって、本当によかった。また、1年後にビザの更新があるけど、コロナが落ち着いて、二人の暮らしがますます安定して幸せなものになるといいな。