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2021.07.21

おばあちゃんを詐欺から救え!

「てるえさん、新しいおふとん買ったんですか」
訪問介護のスタッフの高橋さんがてるえさんの家を3日ぶりに訪れると、押し入れの前に立派な新品のいかにも高そうな布団が積まれているのが目に入った。
ひもでくくられたままで、手をつけていないようだ。

実はてるえさん、以前2度にわたってオレオレ詐欺で、60万円ほどの被害に遭っている。てるえさんは少し認知症になっているようで、自分のお金の管理ができていなかった。お金がどこにあるかもわからないし、家の中も足の踏み場もないくらいで、いわゆる「ゴミ屋敷」状態になっていた。積み上げられたゴミの中から、税金の督促状が見つかったこともある。

この布団は、訪問販売で押し売りされたんじゃないか。

嫌な予感がした高橋さんは、慌てて法テラスへ電話をかけた。
そうして、白樺法律事務所につながった。

弁護士「てるえさんに判断能力があるかどうかですね。判断能力のない人がした契約は無効になります。お話を伺っていると、認知症が進んでいて、判断能力が十分じゃない可能性が高いように思います。一度、認知症の診断を取ってみてください。」

てるえさんは、高橋さんと一緒に病院へ行き、認知症の診断を受けた。
診断書には「認知症…支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない」と書かれていた。

弁護士「てるえさんは、『保佐相当』ですね。裁判所に保佐開始申立をすれば、裁判所が弁護士や司法書士などの専門家から、保佐人になる適任者を選任してくれます。」

高橋さん「保佐人…その人をつけると、どうなるんですか?」

弁護士「成年後見制度にもその方の判断能力によって後見、保佐、補助と三段階あります。後見は、小さい子どもの親のように、すべての行為を代わりに行う権限がありますが、保佐や補助は、裁判所が決めた行為に代理権、本人がした行為に保佐人・補助人の同意がなければ成立しない『同意権』、本人がした行為を取り消せる『取消権』が与えられます。つまり、今後は、てるえさんが詐欺による契約をしたとしても、保佐人が取り消すことができるし、大きなお金が動く契約は、保佐人が代わりに行ったり、保佐人の同意がなければできないとすることができます」

高橋さん「それは安心ですね。てるえさんは一人で身の回りのことをするのが大変になってきているので、施設に入った方がいいんじゃないかと思っているんです。唯一の親族である息子さんは遠方に住んでいる上に身体も不自由みたいで、誰かおふくろの面倒をみてくれればなあなんて言っていましたし…」

弁護士「それならなおさら保佐人をつけたほうがいいですね。保佐人がいれば、施設入所の契約も、代わりにやってもらえますよ」

弁護士は、家庭裁判所に保佐開始申立を行った。
一度、裁判所へてるえさんと弁護士が面接へ行き、てるえさんの判断能力の確認や、成年後見の仕組みについての説明があった。
裁判所の調査官「お布団を買ったことは覚えていますか」
てるえさん「ああ、お布団屋さんのお兄さんが来て、お布団を置いていったわよ」
一同 (笑) 
弁護士「てるえさん、お布団屋さんはてるえさんをだまして、お布団を買わせたんですよ。でも、これからは保佐人の方がてるえさんのお金の管理や契約をしてくれるので、こういったことはありません。安心してくださいね」

それから2週間くらいして、市内の司法書士が保佐人に選ばれた。
保佐人は、成年後見制度の経験が豊富な先生だった。

ところで、詐欺で買わされたピカピカなお布団はというと…
てるえさんに、弁護士が布団屋さんに、認知症の診断が出ていて、判断能力がない状態での契約は無効だと主張し、布団を返品し、代金を半額返金してもらった。

その後のある日…
「こんにちは~、お掃除にまいりました~!」
訪問介護高橋さん「はいはーい、どうぞー。よろしくお願いします」
てるえさん「高橋さん、うちにあげていいの?また詐欺じゃない?」
高橋さん「違いますよ、こんどは、ちゃんと保佐人の先生が頼んでくれたお掃除屋さんです」

保佐人が清掃業者さんと契約をして、ゴミ屋敷状態だったお家がスッキリ整頓された。
今は、高橋さんと相談して、今後てるえさんが気持ちよく過ごせそうな施設を探しているそうだ。

ひとり暮らしのおじいちゃん、おばあちゃんを狙った詐欺も多いとよく聞きます。
お金の管理も、身の回りのことも、任せられる専門家がいれば、安心ですね。